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「かかさんが、ご飯先に食べて、寝るなら二度寝にしてくれって」と起こされた。
朝飯もそれは美味しくて、僕たちはみんなそろってご飯をおかわりした。ゆうくんに後ろ髪を引かれながら出発の準備をして、また来ると約束した。昨日知り合った同郷の先輩である客が「今日は函館まででしたよね。途中まで一緒に走りますか」と言うので、一緒に出ることにした。校舎の前まで、かかさんと、もう1人の客が見送ってくれた。ホンダのビートに乗っていた。僕ら2人と自転車に乗ったゆうくんは前の道路まで競争し、大手を振って小学校をあとにした。何度か休憩をし、どこを走るか、と相談しているうちに僕たちは函館まで一緒に行くことになった。
洞爺湖のほとりをわずかにまわり、大沼と小沼の間の道を抜けて、駒ヶ岳をうしろに奇妙な小島がぽつぽつと浮かぶ沼の前で休憩をとった。
 函館までの海岸線はこわいほど風が強く、しかし僕達は長い直線道路を吹きさらしで走らねばならなかった。ハンドルを少しだけ左に切り、風に当てるように傾けて走った。建物の影やトラックを追い越すたびに風の波が僕達を襲った。しかし、なんといっても、信号待ちや、コンビニ休憩で話せるのは新鮮で、この日の距離はいつもとたいして変わらなかったが短く思えた。前を走る昨日知り合ったばかりの連れに「休憩に入ろうか」という合図を貰うたび、距離を確認しては「もうこんなにも来たのか」と驚いた。

 函館のライダーハウスについた。宿には誰もいなかった。にぎやかな絵の描いてあるシャッターの前に並んで単車を停めると、すぐに管理人らしき中年男性が猫とともに出て来た。荷物を宿に置き、ひと休みしたあと、路面電車に乗って同郷の彼の知っているジンギスカンの店に連れて行ってもらった。五稜郭タワーの近くの、カウンターのある小さな店で、女将さんも気さくな女性だった。

 彼は北海道に入ったその日にこの店を別の人に連れて来てもらったらしい。照れくさそうに「また来ちゃいました。彼がジンギスカン食べてないそうなので」というと、「あら、それはウチの食べたらよそに行けなくなるね」と笑った。初めてのラム肉に感動していると、「本州の人にそんなに喜んでもらえると嬉しいね。臭いっていう人もいるから」とラム肉のソーセージを2本ずつサービスしてくれた。「とんでもない!めちゃくちゃ美味しいです」というと、「じゃあ、今度は誰か連れて来てもらわないと」と笑っていた。函館まで友人を連れてくるのは大変そうだ。「また、北海道来たら寄らせてもらいます」、と女将さんを交えて楽しい食事を終え、酒でいい気分になりながら店を出ると、雨が降り出していた。

 多分もうかなり酔っていたと思うが、僕達はまた路面電車に乗って終着駅の地元で有名だという赤茶色の温泉に入り、それがあまりにも熱かったので2人とも逆上せて足をふらつかせながらまた酒とツマミを買って、冷たい風の中、宿に戻った。宿には客が1人増えていた。

 3人でまた晩酌をしながら話し、気付いたらみんな寝ていた。