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 この日は朝から雨が降りしきっていた。もう1人の客が出たころ、小雨になったので荷物を積んで、近くの港から午後の船に乗るという同郷の先輩と別れて僕は札幌を目指した。50キロほどは昨日と同じ道を北上する形だ。長万部からニセコ倶知安を通り、余市、小樽とまた海沿いに戻った。蘭越のあたりで雨は止み始め、小樽から札幌に向かうころには目の前の空に縦の太い虹がかかっていた。札幌に着いたのは暗くなってからだった。夜の札幌はネオンが輝いて、大通りの往来は激しく、路面電車もバスも走っており、僕は怯えながら大きな荷物を積んだ単車を走らせた。
 宿に着いて電話をかけると、管理人が二階から降りてきた。今年は台風の影響もあってか、ライダーが上がるのが早いらしい。この日は僕一人だったので、「好きに使っていいよ。なんなら札幌観光するのに連泊したらいい。バイクもガレージに入れといて大丈夫だよ」と言ってくれた。

 一休み入れてから、一階の居酒屋に飯を食べに行った。若い女性と、大将だけだった。酒とつまみのセットを頼んで食べていると、あとから女性の友人、高齢のおじさんと、キャバクラのキャストだというひとが来た。北海道にずっと住んでいるという女性ふたりとはなぜか人生の話をした。僕はなんだかあまり興味がなく、そんなものか、と思っていた。大将に道産のトウキビ(とうもろこしのことだ)や大きなシシトウ(これはもうピーマンと言った方がいい気がする)をサービスしてもらい、しかし酒も入ってくると話も盛り上がるもので、どうしてかこの若いキャバクラのキャストの年齢が知りたくなって、嫌がるかとも思ったが、割と乗り気で少しずつヒントを与えてくるのですぐに35歳だということがわかった。正直30歳行かないくらいだと思っていたので驚くと、「彼にビール」と僕は4杯めをいただくことになった。彼女らの出身であるという小樽の話や、僕の身の上なんかを話していると、宿の管理人が入ってきた。「お世話になります」と乾杯し、"とーちゃん"と呼ばれた管理人は「これライダーに差し入れ」と北海道限定、ソフトカツゲン乳酸菌飲料だ)を机に置いた。「朝飲むと元気が出るよ。冷蔵庫にしまっとけ」「こっちはやらねえからな。俺が好きだから」とリボンナポリン(これも北海道限定の炭酸飲料)を見せた。その仕草がカッコよくて面白かった。話しながら飲んでいると、19時に居酒屋に降りたはずが23時になっていた。僕はこの頃早寝早起きが基本だったので眠たくなって来て、居酒屋にいた人々にご馳走様と礼を言い、お会計をして二階に戻った。

 一人だったので置いてあった銀マットや寝袋を3枚ずつ使ってフローリングの上で寝た。