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 僕は本当に今日発つのかわかっていなかった。というのも、今日届く荷物が二つあったからだ。しかし、その荷物もあっけなく昼過ぎに届き、陽が落ちてようやく船の手配をするために電話をかけた。荷物を括り付けたはいいが、あまりにも量が多いので、テントで寝るための銀の断熱シートは置いていくことにした。もうすぐ20時になるころようやく僕は自分の部屋を出た。曲がりくねった峠道を抜けて比叡山を越えた。夜の山道はけわしく、風で体温を奪われ、早くも持ってきた防寒着にお世話になることになった。161号の湖西線をまっすぐ北上し福井県敦賀市に入ると、そうたいして走ることもなく港へと到着した。

 僕のほかにも単車でフェリーに乗る人は7、8人ほどいるようだった。ターミナルで手続きを済ませて、フェリーへ乗船する列に並んで置いておいた単車のところへ戻ると、僕の前に並んでいた男性が声をかけてきた。「こんにちは」「三重のどこからきたの?」愛想のいい笑顔の、背の低い中年男性だった。僕がいない間にナンバープレートを見たようだ。三重から来たわけではなかったが、彼のナンバープレートに三河と書いてあるのをみて、「四日市です」と答えた。故郷が近いと親近感を抱くものだ。「私は愛知から」「そうみたいですね」ナンバープレートを指して言った。「来る時降られなかった?」僕はさっきの嘘とも言えぬ嘘に少し罪悪感を感じながら、「いいえ、今日は京都から来たので」と答えた。彼は毎年この船に乗って北海道を4、5日回っていると言った。予定を聞かれたので、11日間の旅を予定していること、キャンプ用具は持ってきたが、宿は決めていないこと、行く場所もあらかた目処はつけているものの、前日に決めようと思っていることを伝えると、また人好きのする笑顔で「いいなあ。かっこいいね」と笑った。北海道ツーリングでの心得などを聞きながら、お互いの単車の話をしていると、「乗船の準備をしてください」と声が聞こえた。「そろそろみたいですね。」僕たちのほかにも並んでいたライダーたちはみんないそいそとヘルメットをかぶり、単車にまたがり始めていた。どうやら単車が一番先に乗船するらしい。チケットを見せてしっかりしたタープをわたり、船内に入った。「ローギアで!ハンドルロック!」けたたましい音の響く車両甲板でヘルメットを被っているライダーの顔に口を寄せて乗組員が一言ずつ区切りながら発音した。大きく頷いて単車を停めると、客室入り口の看板に従ってエレベーターに乗り、車両甲板を出る。
 「いらっしゃいませ!」エレベーターを降りたわれわれを乗組員が大きな声で迎え、少なからず数人は驚いて立ち止まった。船内は綺麗で広々としており、なるほど、1日いても飽きないだろうと予感させた。乗組員に場所を教えてもらいA7と書かれた部屋に向かったが、ドアが開いていない。ガチャガチャとノブを回していると、廊下にいたおばちゃんが「なに、開かないの、貸してごらん」と助けを出してくれたが、結局鍵がかかっていて開かなかったので乗組員を呼んだ。申し訳なさそうに鍵を開けて彼は去っていった。10人一部屋のツーリストAは、一番安い価格の部屋だったが、この部屋は僕以外の客はないようで、ベッドも一番奥の窓際だったのですっかり満足して荷物を置き、靴を履いたまま足を投げ出して横になった。疲労と眠気を意識した。出航まではあと1時間と少しある。それまで眠ろう。
 次に起きた時には船は揺れていた。窓の外はただ暗く、何の景色も映していなかった。もう出航したのだろう。夜の海だ。朝までもう一眠りすることにして靴を脱いだ。